■特集001 石にまつわる話「 東北編 」
 私たちは毎日石灰石の恩恵を授かっております。石灰石は自給できる大切な資源であります。ところで日本ではかつて石炭、金、銀、銅、鉄等多くの地下資源によって栄えて参りましたが、今その殆どは使命を終えてしまいました。コミュニティーコーナーでは「石と私たち」と題し、各地の石灰石だけでなく、その他石にまつわる話題を集めて、しばらくの間皆様にご提供致します。初回は東北地区です。

「石灰石が語る太古の世界」七田 清氏 (株式会社 東北鉄興社 元従業員)

1.化石に魅せられて

 私が在住する東山町は岩手県一関市の東約20kmの所に位置し、南北に細長い面積87.36km2の町です。東山町は石灰岩の豊富な産地として知られ、町全体の約25%が石灰岩でいたる所に採掘場があります。石灰鉱山で働いておりましたが、石灰岩が古生物(化石)の遺骸より構成され、そこに数億年前に生息していた動植物が化石として含まれていることに気づいておりませんでした。
東山町付近の地質表(北上山系南部古生層の一部を形成する)
5億年 4億年 3億年 2億年
1億年
先カンブリア
時代
古生代 中生代 新生代
カンブリア紀 オルドビス紀 シルル紀 デボン紀 石炭紀 ベルム紀  
 私が化石を初めて手にしたのは約20年前(1979年)で、町内では珍しくない「海ユリ」でした。化石に関心を持ち、調べてみると東山町は「古生層」(デボン紀)(石炭紀)(ペルム紀)より陸棲植物、海棲生物など色々な化石資料が採取され、これまで数多くの国内初発見となるものも確認されている所でした。特に昭和24年、デボン紀層より日本で最初に植物化石が発見された場所として地質・古生物学上いまなお大きな役割を果たしている場所として、多くの研究者や学生が訪れる所です。
 さて、私が今日まで採取した化石の数は数百個に及びますが、その中には学術的に貴重な物も含まれておりました。元岩手県立博物館学芸調査員川上雄司先生の指導のもと、東北大学地質学教室永広昌之先生の鑑定の結果、日本最古の何体動物頭足類「アンモナイト」と判明したものもあり、私の化石採取意欲を強くしております。この化石は現在岩手県立博物館に所蔵されております。このように化石と出会い、石灰石の中に埋もれていた数億年前の動植物に触れたとき、一口では言い表せない感動があります。今後の活動はこの感動を地域の子供たちにも味わって貰いたいと考え、化石発見の指導、展示館の設置等20年間におよぶ化石採取活動の成果を地域振興の一役に・・・と夢を膨らませています。私は現在岩手県地学教育研究会の会員として活動しております。
採取化石一覧 (引用文献 原色化石図鑑、古生物学事典)
節足動物 三葉虫網 三葉虫 フィリップシドの尾部
ブロエタス類
コノフィリップシア
頭、胸、尾
デセグメンター
リンガフィリッシア・サブコニカ
1個
1匹
1匹
数個

1個
棘皮動物 ウミユリ網 ウミユリ 頭部 数個
軟体動物 頭足網
   頭足類
   腕足類
   腹足類
   二枚貝類

アンモナイト

マキガイ


2個
刺胞動物 花虫網 サンゴ
半索動物 筆石網
外肛動物 コケムシ網
原生動物 フズリナ
植物 ヒカゲノカズラ門
トクサ門
鱗木
トクサ
アンモナイト
三葉虫
ウミユリ
鱗木
※ アンモナイトは1992年日本地質学会の地質学誌に紹介され、現在岩手県立博物館に展示されています。
※ 鱗木は日本最古の植物の化石と言われています。
 これらの化石を見ていると、我々が携わる石灰石の中に数億年という気の遠くなるような時の流れを忘れさせる不思議な世界に引き込まれる感じがします。
2.数千万年の時が作り出した自然の造形美 「鍾乳洞」

 石灰鉱業に携わっていて出会うものに鍾乳洞があります。鍾乳洞が出来る条件は、地表に近いところに石灰岩層があって、それに割れ目や断層があり、さらに地下水があること。この条件が揃った時、地下水が石灰岩を溶かし、100年に1cmという長い時間をかけて鍾乳洞が作られます。洞内にはフローストーン、カーテン、鍾乳管、つらら石、石筍、石柱、洞穴サンゴ、ノッチ、ノジュール、ヘリクタイト、地底湖等が形成され、形成される条件、成長過程の違いにより作り上げられる鍾乳石の形は変化し、鍾乳洞の雰囲気を幻想的なものとしています。
 鍾乳洞は各地に多くありますが、東北地区で有名なのは日本三大鍾乳洞の一つ、水深120mの地底湖を持つ「龍泉洞」、主洞の長さ2,300m、総延長12,000mを超え、日本最長の上学術的にも価値の高い「安家洞」、「氷渡探検洞」(以上岩手県岩泉町)、洞内に落差29mの滝のある「滝観洞」(岩手県住田町)、「幽玄洞」(岩手県東山町)、「あぶくま洞」、「入水鍾乳洞」(福島県滝根町)等があります。

石筍
ノッチ
ストロー
ポットホール
つらら石・石柱
3.採掘場に突然現れた幻想の世界

 昭和37年頃、現在のM東北鉄興社の採掘場で採掘をしていたところ、切羽にポッカリと穴が開きました。中に入ってみるとそこは純白の世界、「鍾乳洞」ではありませんか。洞穴は幅10m、高さは最大で3m、奥行き推定20mで鍾乳洞としては小さいものでした。地元では観光化の声も出ましたが、規模が小さいこと、開発途中の切羽であることから、採掘が続けられました。
 残念なのは数万年という長い年月を経てできた鍾乳洞が1回の発破で姿を消してしまったことです。現在残されたものは数枚の写真だけです。
 豊富な地下資源に眠る太古の生物に出会い、数億年をかけて作り上げられた自然の造形物に出会うとき、開発という名のもとに行われる自然破壊、環境問題についても考えてみようではありませんか。
ぽっかりとあいた洞入口
純白無垢の世界
あとがき

 今回のコミュニティーコーナーは「化石」、「鍾乳洞」をテーマとしました。寄稿頂きました七田様に感謝申し上げ、今後益々のご活躍をお祈り申し上げます。

(東北地区 地方連絡員 佐藤・安東)